大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)203号 判決 1975年8月13日
原告
和宏住宅株式会社
代表者
石原宏郎
訴訟代理人
西村元昭
被告
中村博
被告
萱場秀造
被告ら訴訟代理人
井上福男
主文
原告が被告中村博に賃貸している別紙物件目録記載の(一)の建物部分の賃料を昭和四九年一月一日から一か月金二万九、五三〇円に確定する。
原告が被告萱場秀造に賃貸している同目録記載の(二)の建物部分の賃料を同日から一か月金二万九、五三〇円に確定する。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は三分しその一を原告の、その余を被告らの各負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一、原告会社
原告が被告中村博に賃貸している別紙物件目録記載の(一)の建物部分の賃料を昭和四九年一月一日から一か月金三万四、〇〇〇円に確定する。
原告が被告萱場秀造に賃貸している同目録記載の(二)の建物部分の賃料を同日から一か月金三万二、五〇〇円に確定する。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決。
二、被告ら
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二 当事者の事実上の主張
一、本件請求の原因事実
(一) 原告会社は、被告中村博に対しては昭和四七年一月末から、別紙物件目録記載の(一)の建物部分を、被告萱場秀造に対しては昭和四四年四月八日から、同目録記載の(二)の建物部分を、クーラー、ガスレンジ、瞬間湯沸器、換気扇、照明器具、流台などの造作設備一切付きで賃貸している(一年ごと更新)。
被告中村博に対する昭和四七年一月末日からの月額賃料は、一か月金二万八、〇〇〇円、被告萱場秀造に対する昭和四六年五月末日からの月額賃料は、金二万六、〇〇〇円である。<以下略>
理由
一本件請求の原因事実中第一項の事実は、当事者間に争いがない。
二原告会社主張の特約について
本件賃貸借契約には、一年ごとに契約を更新する際、原告会社から年一割を越えない範囲で賃料の増額請求をしたときには、賃借人は異議なく承認する旨の特約のあることは当事者間に争いがない。
しかし、当裁判所は、この特約が次の理由で効力がないと判断する。
(1) 借家法七条には、賃料の増減の発生要件が規定されているのであるから、賃貸人は、同条によるしか、賃料増額の請求はできない筋合である。もし、特約が有効であるとすると、賃貸人は、同条の要件がなくても、賃料増額の請求ができ、賃借人は、その値上額に拘束される結果になり、これでは、賃借人の利益が無視されるばかりか、同条の規定の存在価値がなくなつてしまう。
(2) 同条一項但書は、賃料を一定期間増額しない特約を有効としている。この反対解釈からして、借家法は、賃料を当然増額する特約の存在を認めない趣旨であると解される。
三原告会社主張の借家法七条による賃料増額請求について
(一) 原告会社は、昭和四八年一一月二四日、被告中村博に対しては昭和四九年一月一日から月額賃料を金三万四、〇〇〇円に、被告萱場秀造に対しては同日から月額賃料を金三万二、五〇〇円に、それぞれ値上げする旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
そうして、被告中村博の月額賃料が昭和四七年一月末日から金二万八、〇〇〇円、被告萱場秀造の月額賃料が昭和四六年五月末日から金二万六、〇〇〇円であることも当事者間に争いがない。
(二) ところで、被告らの現行賃料がきめられた昭和四六年五月ないし昭和四六年一月と賃料増額の意思表示のあつた昭和四八年一一月二四日ころとを比較したとき、経済事情が変つた結果その賃料が不相当になつたことは、当裁判所に顕著な事実である。そうすると、原告会社の被告らに対する賃料増額の請求は、借家法七条の要件があることに帰着する。
鑑定人小野三郎の鑑定の結果によると、昭和四九年一月一日現在の本件賃借建物部分の適正賃料は、いずれも金二万九、五三〇円であることが認められ、この鑑定の結果が、不合理、不相当であることが認められる資料はない。そこで、当裁判所は、この鑑定の結果を採用してその賃料額を確定することにする。
四むすび
原告会社が被告らに賃貸中の本件各建物部分の昭和四九年一月一日からの月額賃料を、いずれも金二万九、五三〇円に確定することにし、これを越える原告会社の本件請求部分を棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条に従い主文のとおり判決する。 (古崎慶長)
物件目録
豊中市螢池中町四丁目三八番地、三八番地の二
家屋番号同町三八番
軽量鉄骨造陸屋根三階建共同住宅一棟
床面積 一階 141.66m2
二階 160.55m2
三階 160.55m2
附属建物
鉄パイプ造ポリエステル葺平家建車庫
床面積 48.06m2
(一) 被告中村博の賃借部分
二階四室のうち東端の室(四〇m2)(二) 被告萱場秀造の賃借部分
三階四室のうち西から二番目の室(四〇m2)